狐塚 小唄入(きつねづか こうたいり)

鳴子
謡いながら鳴子で鳥を追い払います

 

分  類:小名狂言 二人冠者物

登場人物:太郎冠者、次郎冠者、主


 あらすじ

 頃は秋。今年は豊作なのですが、山中の狐塚の 田には鳥やいのしし、猿などが出て米を食い荒らすので、主人は太郎冠者と次郎冠者 に鳴子(板に細く短い竹をつけ、振ると音が鳴るようにしたもの)を持たせ、田の番 をして鳥など追い散らすように命じます。
 昼間は元気よく鳥を追って楽しんでいた二人ですが、日も暮れて暗くなるとさすが に心細くなってきました。主人には「庵を作ってあるから、夜になってもその中に 入って番をしていよ」と言われています。しかし何といっても、悪い狐が出るという 噂の狐塚の前なのです。おまけにどんどん気温が下がってきます。寒さと心細さで二 人が気落ちし始めた時、気を利かせた主人が、慰労のために酒をもって現われまし た。それなのに二人は、せっかくの主人の登場をてっきり狐が化かしに出たのだと思 い込み、酒も飲まず、事もあろうに主人を松葉で燻し縛り上げてしまい、結局主人に 追い込まれます。
 これが普通の『狐塚』のあらすじです。「小唄入」は、鳥を追いに田に出た太郎冠 者・次郎冠者があまりの気持ちよさに、浮かれて「引くもの尽くし」の小唄を謡って 鳥を追う所に重点が置かれ、主人が酒を持って出てからのドタバタ劇的要素が大幅に 省略されています。普通の『狐塚』よりも小唄・舞がはいることで、より秋らしい情 緒を出した作品になっています。



みどころ

 なんといっても中間部の謡と舞でしょう。これがある故に、狂言では珍しい「小 書」のついた曲(分類では小習)になっているのです。その分、狂言らしい後半の笑 いの部分が少なく、主人がちょっとしか出てこないのが残念ですが…。
 舞は太郎冠者・次郎冠者がどれだけ息を合せられるかにかかっています。それが全 てと言っても過言ではないでしょう。対称に動き続ける二人を正面から見ていると、 常に動いている一昔前のゲームキャラみたいでちょっと笑いを誘います。
 自ら謡いつつ舞うもの全てに共通することですが、体力勝負である舞の部分をいか に辛そうに見せないで演じきられるかが、演者の力量が問われるところでしょう。
 『狐塚小唄入』はそれほど長くはありませんが…真夏にはできたら避けたい一曲です ね。やっぱり秋の刈り入れ時が似合います。



ちょっとうんちく

 「引くもの尽くし」の謡では、しめ縄から犬、網、かすみなど、様々な「引く」も のが謡われます。後半は奥州の名所案内のように、歌枕が列挙されています。実はこ れは恋の歌の歌枕ばかりなのです。これには『狐塚 』の成り立ちが関係していま す。
 『狐塚』は、『鳴子』(大蔵流では廃曲)という狂言が大きく影響を与えていると 考えられていますが、「天正狂言本」(現存最古のテキスト)では、『鳴子』の方の 小唄に、引くものとして「あの人の褄(夫・妻)」など男女の仲に関係するのもが多 数入っています。また登場人物に太郎冠者・次郎冠者の女房を登場させ、鳥を追った 後、4人で酒盛りをするという筋立てになっています。『鳴子』は元来、男女両方が 登場し、田の神に豊穣を感染させるという呪術的な農耕芸能の影響を強く受けている ので、歌謡が中心とした作品になっていました。近世になって、それに滑稽さを加え た現行の『鳴子』(田にて主人が二人にねぎらいの酒を飲ませ、もう一度見回りに来 た時に酔って寝ていた為、怒って追い込む)が出来たのですが、その際に鳥追いの シーンをメインに据えたため、恋愛小唄がなくなったと考えられています。
 『狐塚小唄入』はこれに更に別の狂言から、主人と狐と間違えるという滑稽な要素を取り込 んでできたものなので、ますます恋愛とは関係の無い内容になっています。

(山田 浩子記)

ゲホっゴホ
松葉に火をつけ、主人をいぶします
「尾を出せ」「鳴け」

 公演情報

 1999/11/18(木) 京都大学 能と狂言の会
          於 京都観世会館


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