止動方角(しどうほうがく)


 「ハィ、ハィ、ドゥドゥドゥー・・・」
「ヒヒィィィィン!」

 

分  類:小名狂言 太郎冠者物

登場人物:太郎冠者(シテ)、主、伯父、馬


 あらすじ

 太郎冠者は、茶比べのため、主の伯父の所へ茶や馬を借りに行かせられる。借りた馬は、そのうしろですわぶき(咳)をすると暴れる癖があるという。暴れた時に鎮める呪文を教えてもらって太郎冠者は帰路につく。
 帰りが遅いと迎えに来た主は、叱りつけて馬に乗る。馬上で叱り続けるので腹を立てた太郎冠者は、背後で咳をして落馬させ、呪文を唱えて馬を乗り鎮める。
 二度も落馬した主は、自分は乗らないと言って代わりに太郎冠者に乗らせる。太郎冠者は人を使う身になった時の稽古がしたいと言い、主を従者扱いにして叱られた通りに叱り返す。主が怒ってまた馬に乗ると、太郎冠者は咳をして落とし、馬と間違えて主を乗り鎮め、逃げる馬を二人で追う。


「エェーエ、あの不承そうな面付きに歩りき様かな」
ふてくされ気味の太郎冠者、桶をブラブラ振ってます。

 みどころ

 なかなかの大曲なので(演じる側も、なかなか身体的にしんどい曲)余り観る機会がありませんが、太郎冠者のむげな主への抵抗ぶりに、ユーモラスで何ともかわいらしい、一癖あるお馬さんの活躍(その一癖を利用してのレジスタンス活動であります)と、思う存分楽しめる構成となっております。
 馬は賢徳(けんとく)の面・黒頭・モンパを着、「ヒヒィィィン」といななきながら登場しますが、歌舞伎の馬(前足・後足二人掛かりで本格的)とは対称的な、素朴ながら的を得た狂言の馬描写に、「ああ、やっぱり馬さんそっくりや」と妙に納得することでしょう(似たような扮装に、『横座』の“牛”というのもあります。画像データで、その格好の類似点・相違点を見比べてみては如何でしょうか)。その馬を乗り鎮める呪文が、「寂連童子六万菩薩、鎮まり給え、止動方角!」であり、演目名はここに由来しております。更に説明を加えると、「止動」は馬を扱うときの言葉「ハイシィドゥドゥ」の“シイ”と“ドゥ”、「方角」は方法の意で、さしずめ「止動方角」=馬を扱う方法とでもなりましょうか。
 馬だけでなく、橋掛かりを利用した距離感の演出(先に行った太郎冠者が橋掛リにいて、「あとから失せぃ」と言われた時、二人がそのままくるりと向きを変えると、太郎冠者がはるか後方から来ることになる)や、主従のやりとり、特に太郎冠者が主を叱り返す主従逆転の場面の描写等、よくできた狂言だと思います。
 ちなみに、落馬して腰をうったり、太郎冠者に逆に叱られたりと、終始怒りっぱなしの主ですが、和泉流では、本曲の主と『武悪』『鬮罪人』の主とを「三主」と言い、こわい主の代表としております。


「ブヘン、ブヘン!(作り咳)・・」
「ヒヒィィン!」
主は落馬。
「寂連童子六万菩薩、鎮まり給え、止動方角!」 

文:湯田拓也

 

 公演情報

 


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