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名取川

分類

出家座頭狂言、出家物

登場人物

出家(シテ)、名取某

あらすじ

比叡山で受戒した僧が、「希代坊(きたいぼう)」「不祥坊(ふしょうぼう)」という二つの名前をもらって帰国する。途中で名前を忘れないように着物の袖に名前を書き、道々自分の名前を平家節や小歌節に織り込んで歌いながら帰っていく。すると大きな川に行き当たり、渡る途中で流されてしまう。
陸に上がり袖をみると自分の名前がなくなっている。川に名前を流してしまったと思い、笠で川底をさらって探しているうちに、一人の男に「そこは殺生禁断の川ですよ」と言われる。話を聞くと、その川は名取川で、男は名取某というではないですか。「さてはこいつに名前を取られた」と思った出家は、手相を見てやるといって隙を伺い羽交い締めにし、名を返せと迫ります。男が「希代な事を申す」と言うのを聞いて、自分の名前が希代坊であったことを思い出し、もう一つの名前を要求しますが、「不祥な所へ参った」と言うのを聞いて、もう一つの名前を無事に取り戻します。

みどころ

変わった出家です。名前を二つもらったり、途中で浮かれながら帰ったり。
前半部ではこの変わった出家のキャラクターを紹介し、後半部でこの出家に関わってしまったあわれな男が生け贄となります。
袖に書いた名前が川に流されたからといって川あさりをしたりするなど、筋立てとしては変なのですが、小学館日本古典文学全集の狂言集には「それを観客に不自然と感じさせるようでは、狂言師も 一人前とはいえない」という厳しい言葉が書かれています。
演じ手としてはのりにのって自分の名前を呼びつつも、制御しながらいかないと、次の川づくしの舞でばててしまい、観客に不自然さを思い起こさせてしまうことになり、意外と気苦労の多い狂言です。

木村正雄による解説

比叡山で戒法を受けた僧が大稚児と小稚児とに法名と掛け替えの名前を付けて貰い、更に物覚えが悪いので僧衣の袖に書いて貰う。色々の方法で名前を覚えながら帰る途中、川を渡渉(かち)渡りにして深みに嵌(はま)り袖に書いて貰った名前が消えてしまう。僧は流れが緩やかな川だからまだその辺りに名が流れているものと思い笠で自分の名を掬おうとする。
そこへ名取の名主が現れこの川は殺生禁断だと告げるが、吾が名を聞かれて「名取の某」と答える。僧は定めてこの男が自分の名を取った物と思い込んでしまう。さて……。
僧の常識の無さを暴露しているのだが、ナンセンスと思われる程の愚かさである。その愚かさを愛すべき長閑さだと感じさせる演技が当今の狂言師に要求されているのであろうか……。賛否交々であろうが、出家物の作品の中では佳作と言える。
名取の某の弓の上手下手を手の筋で見分ける所で、弓手(左手)から見て褒めて置いた後に、妻手(右手)を見るなどは弓の話にしたのも手柄だが、作者に武術の心得があるのかも。

作成者

佐渡のきつね

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